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藤沢周平作品内容3

さ 〜 そ
単行本書籍名 作 品 名

主人公

脇役 初出詳細 内         容
ささやく河 ささやく河 伊之助 おまさ   東京新聞他に84年8月1日から85年3月30日迄連載された作品。彫師伊之助捕物帳第三弾(最終)。島帰りの男の殺人事件。浮かび上がる犯人像は、昔の押し込み強盗事件の三人組み。その仲間の口封じか?。しかし犯人は、意外にもその時の別の被害者の夫と言うハードボイルド。会心の長編傑作。今回おまさはほとんど出てこない。それが残念と言えば残念。
刺客 陰の頭領 谷口権七郎    81年11月号 小説新潮81年11月号から83年3月号迄断続連載された作品。用心棒日月抄第三弾。第二弾の『孤剣』で連番状を取り返し、これで終わりと思われたが、読者の要望?で又また脱藩。再び江戸で活躍する。本作品は江戸を舞台に、藩士の非違を探る嗅足組と、大富派の陰の首謀・寿庵保方が放った刺客との戦いが縦糸であり、用心棒稼業は添え物に近い展開であるが、一応それぞれの作品を独立して整理した。(多少違和感があるが・・)これで終わりかと思いきや、最終作品の『凶刃』に繋がる。その第一話。国元に帰って半年、間宮中老は安心をしているが、殿の叔父の寿庵保方がお家乗っ取りを企み、藩の裏の組織として重要な『嗅足組』を壊滅させる為、五人の刺客を江戸に派遣したとの事。嗅足組と佐知を救うため、頭目で佐知の父親でもある谷口からの密命で、三度脱藩し、江戸に向う迄の経緯。したがって本作品は単独作品としては適当ではないかもしれない。嫁に行くかもしれない、と言っていた佐知は嫁にはいっていなかった。五人の刺客との戦いが話の中心となる。
刺客 再会 坂部六左衛門    82年1月号 江戸に到着した又八郎。佐知と連絡を取り状況を説明。お互いの再会を喜ぶ。用心棒稼業の話としては、細谷の他に、もう一人欲しかった用心棒に、タイミングよく現れた又八郎が加わりひと働き。大名の下屋敷を襲う窃盗団が出没、四万石の小大名の護衛を引き受け、現れた彼らを討ち、日当の他に五両の臨時手間を貰う。嗅足組の『はる』と言う女が消えたと言う知らせが佐知から届く。
刺客 番場町別宅 新吉 みさ 5月号 佐知の配下の美代が、はるの拉致された場所を探索、これを救う。この時刺客の一人土橋を討つ、残りは四人。帰宅した又八郎は泥棒にはいられ十三両の大金を盗まれてしまう。このたびは国元を出る時谷口から貰った金子があり、多少の余裕もあったのに・・。今回の用心棒は一日一分の割のよい仕事。気鬱の娘の護衛役という気楽な仕事。言い交わした男との縁談話が壊れた為気鬱になったと言う話だか、雇い主の本当の目的は別にあった。
刺客 襲撃 おきみ おみね 7月号 佐知達の探索で刺客・中田伝十郎をる。嗅足組にも死者が出るが残り三人。用心棒稼業は安手間で、ばあさんと孫娘の護衛役。大店の隠居と言う触れ込みだか、実態は元金貸しをしていた人で、過去に襲われた経緯があり、再度その強盗が襲来する話。最後はボーナスがでる。
刺客 梅雨の音 本多市兵衛   9月号 佐知が襲撃され大怪我をする。橋の上で挟み撃ちに遭い襲われたと言う。結城屋という種物屋に助けられ、又八郎が看病をする。熱の下がった三日目の夜、二人はどちらからともなく一つ床にいる。治療費で懐は空っぽ。腕の立たない浪人の護衛を引き受けるが、どうも相手は胡散臭い。殿様の姉との関係で国を出ていきさつがあり、上意討ちの刺客が現れるが、何とかこれを防ぐ。結城屋の前に佇む武士、刺客の杉野清五郎と立ち会いこれを討つが自らも足に怪我をする。刺客の残りはあと二人。
刺客 隠れ蓑 おきん 六兵衛 11月号 足の傷も回復したところへ細谷が女を連れて現れる。お妾さんで、旦那の用心棒をしてくれと頼まれる。一方佐知から連絡があり、刺客成瀬助作と対決、辛くもこれを討つ、残りはあと一人。この間、細谷が用心棒をしていた肝心の雇い主を攫われてしまう。しかし店に行くと旦那が既に帰っている。三十両の身の代金の要求があったので息子が払って返されたと言う。女が一芝居打った話。
刺客 薄暮の決闘 八兵衛 松平 83年1月号 細谷に仕官の話がもちあがるが・・。最後の一人、難敵筒井杏平が果し合いの申し込みに現れる。今回の仕事は隠居の保養先の護衛。昔の仲間が貸しを返せと脅してきたと言い、隠居は妄想に取り付かれているように見える。佐知と話し合いをして、帰ると隠居が襲われている。昔の仲間の倅が父親の恨みを果たす為の犯行。筒井との約束の時刻を過ぎてしまいやっと対決、遂に最後の一人を仕留める。それにしても、 斬り合いの場面の描写はいつもながら素晴らしい。料理茶屋『さざ波』での佐知との情景も美しい。藤沢文学の全てが凝縮された作品となった。
刺客 黒幕の死 青江又八郎 牧与之助 3月号 無事に帰国し、直ちに谷口家老に報告。中老間宮のいやみもあるが、先ずはお役目完了。しかし寿庵保方の陰謀に乗せられて鷹狩の帰り、殿が寿庵保方に寄ると言う。あわや殿暗殺という場面の中、壮絶な戦いの内に又八郎が遂に寿庵保方を討つ。二十石加増、三十両の臨時ボーナス。江戸の佐知から小袖が送られてくるが、妻の由亀には勿論言う訳には行かない。これで完全に終りかと思いきや、第四弾凶刃に続く。この作品に牧与之助という人物が登場する。この名前が、後の『蝉しぐれ』の牧文四郎、島崎与之助に繋がる?。まさか。
時雨のあと 雪明かり 芳賀菊四郎 由乃 小説現代
76年4月号
嫁いだ義理の妹の哀れと、自分の心の奥底に潜む想いから、婿入り先や許婚を捨て遂に義妹と飛ぶ男の勇気。純真な青年武士を爽やかに描く作品。冷たい街の表現が美しい作品。秀作。講談社文庫では表題作になっている。
時雨のあと 闇の顔 伊並惣七郎 幾江 小説歴史
76年4号
普請奉行で上司の志田と、大関家の養子で跡取りの泉之助が果し合いをして相打ちになったと思えたが・・。相打ちと見せかけて、実は意外な人物が泉之助を殺害した事件。藩の汚職事件が根底にあり、多くの人物が登場する謎解き。実に面白い長編推理小説の題材にもなる佳作。推理小説好きの作者の一端が伺える作品。タイトルもいい。
時雨のあと 時雨のあと 安蔵 みゆき 週刊小説
75/2/7日号
博打にはまってしまった兄。兄を信じて女郎に身を落した妹の兄への想い。妹の想いとは裏腹な兄の行動。なんと言っても題名がいい。単行本の表題作にした理由も何となく分る。女とは哀れで悲しい。しかし屋根を叩いていた時雨は遠く去ってその先に希望が・・・。
時雨のあと 意気地なし 伊作 おてつ 週刊小説
75/6/20日号
乳飲み子を残して女房に死なれた男。許婚がありながら割り切れない気持ちを持つ女。男の意気地無さが気になり、婚約を破棄してしまう女の気持ち。やさ男とは別のタイプだが、こんな男だからほっておけない、母性愛とでも云うのか。まだ子供が小さいのに妻に先立たれた男の切なさが行間ににじんでいるような・・・。
赤ん坊の『おけい』が泣いているので、『おてつ』がオムツを替えてやるシーン(文庫初版138ページ、その後は155ページ)で【伊作は溜息をついた、おけいはちらと伊作を見た】はおてつではないか?と藤沢作品ファンの友人から指摘がありました。鋭い指摘です。読み込んでいますね。誤植ではなく単純な間違いでしょう。その後訂正されました。平成17年11月30日50刷で確認。
時雨のあと 秘密 由蔵 おみつ 別冊文藝春秋75年132号 年老いた由蔵が、若き日の秘密を思い出している姿の哀れさ、そしてある種の幸せさ。それを嫁の目を通して描く。藤沢文学の味のあるパターン。いつかどこかで遭遇しそうな、あるいは既にどこかで見たような、味わいのある作品。
時雨のあと 果し合い 庄司佐之助 美也 週刊小説
75/11/21日号
兄の孫娘「美也」の許婚の、果し合いを助ける厄介物の老年隠居。自身の若き日の果し合いに想いを馳せ、人の幸せの結末を考える。老人の心境を書かせると、藤沢さんはこれもまた上手い。
時雨のあと 鱗雲 新三郎 雪江 週刊小説
75/9/5日号
国境の峠で苦しんでいる娘雪江を助けたが、彼女は仇討ちをしなければならない身。許婚利穂の不良化、妊娠等との間で次第に変化して行く主人公・新三郎の気持ち・・。突如現れた美しい女性がもたらす心地よい風。多少類似している作品に『小鶴』がある。
時雨みち 帰還せず 塚本半之丞      公儀隠密の塚本が役目を終えて江戸に戻ったが、同役の山崎が帰還していないことから、再度探索に向かい、他人を殺害して死んだことにした山崎の秘密を調べ上げる。複雑な事柄ながら結局彼をる。
時雨みち 飛べ、佐五郎 新免佐五郎 おとよ 問題小説
79年12月号
仇持ちの佐五郎が、長い間逃げ回り相手が遂に病気で死亡したことを確認し、それまで同棲していた「おとよ」から別れようとしたが、そう都合よくいかない話。『飛べ』の意味は???。たーさんとしては題名がなんとなくしっくりこない。『飛べ』とは、おとよから逃げろ、それともおとよと一緒に生きるように変われ?。
時雨みち 山桜 野江    小説宝石
80年2月号
夫の病死で離縁をされ、その後気に入らない再婚話を受けて嫁いだ女性『野江』。つらく切ない環境の生活に思い悩んだ末にやっと本来の男性と新しい人生を歩みだす。美しい風景描写の文章がちりばめられたすばらしい作品。藤沢作品の面目躍如、単行本表題にしても良いのではないかと思われる。個人的に特別好きな作品のひとつ。人生回り道も無駄ではない。映画「山桜」への想い 
時雨みち 盗み喰い 政太 おみつ 問題小説
80年10月号
どうしようもない友達の助次郎を、何くれと無く面倒を看てきた政太。都合がつかず自分の婚約者に助次郎を二三日面倒を看させた結果、女が寝返る話。女は恐ろしい?。本当の親切とは・・考えさせる作品ではある。
時雨みち 滴る汗 宇兵衛    小説宝石
80年10月号
三代にわたる荒物屋、実は公儀隠密の主人公が、自分の身分がばれたと勘違いし殺人を犯すが・・。実は別の隠密が捕まり、早とちりであったことがわかる。しかし最後は殺人者として破滅する。
時雨みち 幼い声 新助 おゆう 問題小説
80年4月号
櫛職人で腕も良く順調に行けば店も出せる新助が、ふと耳の入った幼なじみの話に同情し、助けようとする。しかしいくつかの話の末、相手は静かに消えて行き結局平穏な日が戻る。本当の親切とはどういうものか。幼馴染でも結局は赤の他人だと見抜いた女はその後・・・。
時雨みち 夜の道 おすぎ    週刊小説
80/4/4日号
拾われて育ったおすぎに実の母と名乗る人が現れる。別にこちらはどうでも良いと考え、その後結婚して、夫婦喧嘩からふっとむかしの情景を思い出す。そして未だ実感は湧かないが二十年待った人に一刻も早く知らせに・・・。
時雨みち おばさん およね 忠吉 週刊小説
79/10/12日号
行き倒れ状態の若者を助けたおよね。情が移って年の差も考えずいい仲になってしまうが、長屋に住んでいたことのある悪な娘おはるの出現で、結局元の木阿弥となる。哀れな話。おばさんの題名の切なさ。
時雨みち 亭主の仲間 おきく    小説宝石
79年11月号
亭主の連れてきた安之助と言う男にダニのようにたかられてしまう夫婦の話。藤沢文学に現れる一つのパターン。最後は家をめちゃめちゃにされてしまうが、やっとその男が消えて行く・・。しかし不安が消えたわけではない。まだ何かありそうな・・。
時雨みち おさんが呼ぶ おさん 兼七 週刊小説
80/11/28日号
全く口を利かない紙透屋の女中のおさんが遂に口を利き、幸せをつかむまでの話。手代の悪事を聞きつけて何とかしてやりたいが出来ないもどかしさ。しかし国へ帰るその日なぜか自然に口が開く。そして未来が少し開けるかも・・・。この作品はなぜか別の意味があるような気がしているが???。江戸が舞台であることは明らかであるが、珍しく地名等が一切出てこない特異な作品。
時雨みち 時雨みち 新右衛門 市助 別冊文藝春秋
80年150号
市助と昔は同僚ながら、その後は婿となり差がついて、今では多少の金貸をしてる身分の新右衛門。あまり付き合いたくないかつての同僚の市助が、昔の女のおひさの現状をはなす。それはゆすりに近い話とも取れた。それにはめげないが、昔そでにしてだました女を思い出し、いたたまれず遂におひさを尋ね、昔のわびを入れるが当然無視される。昔のあくどい自分に対する彼自身の心境。この作品もその後どうなるか気になる終わり方。単行本表題作。
市塵 市塵 新井白石 間部詮房   小説現代86年9月号から88年8月号まで連載された作品。徳川六代将軍家宣の登場によって辣腕を振るうことになった二人の人生を上下二冊に現した歴史小説の力作。豊富な知識をベースにして正論を吐く新井白石。巧みな生き方で頭角を現す間部詮房。しかし白石の晩年には思わぬ結果が訪れる。詳細に調査した史実を中心に、作者独特の歴史観を滲ませた作品。芸術選奨文部大臣賞受賞作品。白石はほとんど笑わなかった人とか。藤沢さんのお父上との類似点に関する対談がどこかにあったような気がする。
静かな木 岡安家の犬 岡安 甚之丞 金之助 週刊新潮
93/7/22日号
可愛がっていた犬のアカが、犬鍋で食われてしまった事から起きる破談を中心とした、男と女の気持ちの変化を表現する作品。男は何とか元に戻そうとし、女も心の中でそれを望む。昔から語られていた地方の話を題材にしたか?。動物愛護協会あたりからクレームでも付くと、ユーモアが増すが・・・。冗談です。
静かな木 静かな木 布施孫左衛門    小説新潮
94年5月号
今は隠居の身の孫左衛門。婿にやった次男の邦之助が、侮られたと言って、果し合いをすると言う。相手は時の中老の息子。どちらにも傷がつくので、何とか止めさせようと思案。しかし相手はやる気十分、仕方なく阻止する作戦を展開、得意の海坂藩ものの典型的な話。『生きていればよいこともある』の最後がいい。作品自体が枯れている佳作。
静かな木 偉丈夫 片桐権兵衛    小説新潮
96年1月号
婿になって早くも四十を過ぎ、大きな体で無口な男。支藩の代表として本藩との交渉役を命じられる。紆余曲折はあるが、結果としてうまく行き加増される。日暮れ竹河岸しシリーズ(江戸女絵姿十二景)と共に、最も短い小説ではないか。短編小説としての最後の作品。そして海坂藩作品のお別れ作品。
漆黒の霧の中で 漆黒の霧の中で 伊之助 おまさ 2説あり 小説新潮スペシャル81年冬号から82年秋号迄連載。彫師伊之助捕物帳第二弾。他殺体で発見された七蔵こと七之助に絡む調査を同心の石塚に頼まれ、やむを得ず協力することになった伊之助。おさきと言う七之助の女房の失踪の原因、駿河屋と海龍寺の金にまつわるいきさつ等根の深い物語がハードボイルドタッチで進む長編。そして第三弾『ささやく河』につながる。相変わらず『おまさ』がいい。81年春号〜夏、秋号の年譜もある(講談社文庫)。
周平独言 周平独言         時代小説の背景として、藤沢氏が如何に克明に調査しておられたか、その様子が実に良く分かる。またふるさとの思い出等、かなり奥の深い書き物である。色々な局面で参考にもなる内容の深いエッセイ集。時代のぬくもり、三つの城下町、周平独言、汗だくの格闘からなる。初出、周平独言はグラフ山形に連載、その他は種種のメディアに発表(詳細は不明)。
霜の朝 報復 松平     小説新潮
81年4月号
主人の柚木邦之助の横死、権力による横暴に我慢のならなかった下働きの松平(まつへい)が奉公を止め、家老を失脚さすべく、武家には無い発想で家老の大事にしている梅の木を切るという報復をする。下級武士ものではあるが苗字を持たない下働きの老人を主人公にするという珍しい作品。
霜の朝 泣く母
(頬をつたう涙)
伊庭小四郎 お美尾 週刊小説
79/4/27日号
母は死んだと言われて育ったが、実は生きており、それなりの事情を理解した主人公が、父親違いの弟の為、体を張る話、藤沢文学の良さが出た作品。原題『頬をつたう涙』を改題。
霜の朝
(くしゃみ)
布施甚五郎   週刊小説
74/12/10日号
緊張するとくしゃみが出る癖のある甚五郎。藩主から上意打を命ぜられ、いつもの癖が出ないかと心配する。くしゃみにまつわる幾つかの話があり、いろいろあるが結局上意打は成功する。多少ユーモアのある作品ではないかと思う。
霜の朝 密告 笠戸孫十郎 保乃 小説推理
74年8月号
同心を父親から引き継いだ主人公が、父親が昔扱った事件の恨みをもつ犯人から命をねらわれる話。一寸した短編捕物。笠戸孫十郎の話は別の作品『疑惑』もある。題名が二文字の捕物シリーズを意図されていたのかもしれない。『密告、疑惑』共に74年の作品。それが『出会い茶屋(霧の果て)』(75年作品)に変化したか・・これはたーさんの勝手な推測。
霜の朝 おとくの神 おとく 仙吉 小説宝石
81年9月号
のみの夫婦の仙吉とおとく。仙吉に女が出来て別れ話になり、今まで大事にしてきた人形が仙吉によって壊され、遂に終わりかと言う時、人形が壊れたことによって二人の仲が戻る。体の大きな女と小柄な男の多少ユーモアを最後に表現している。
霜の朝 虹の空 政吉 おかよ 週刊小説
79/7/20日号
身寄りの無いもの同士の二人が、結婚することになるが、実は政吉にはいまは所在が判らないが継母がいた。いじめられた記憶しかないが気になる。探し当ていろいろあるが最後共に生活するようになる。題名は最後のシーンから。
霜の朝 禍福 幸七 いそえ 別冊文藝春秋
81年156号
いそえと言う女と、つい出来てしまったため、せっかくのお店のお嬢さんとの縁談が無くなってしまい、不運と思って暮らしてきた男。婿入りした男の話を聞き、人間何が起こるか判らないと言うまさに題名どおりの話。決して婿にはなるなという話ではない。
霜の朝 追われる男 喜助 おしん 小説新潮
80年10月号
ふとした弾みで人を殺してしまい、追われる身となった喜助が、昔捨てた女を頼る。女は迷うが結局助けようとする。がしかしその前に捕まってしまう。女心の揺れと男のいいかげんさを表す話。
霜の朝 怠け者 弥太平   小説宝石
80年7月号
怠け者でどうしようもない叔父。新しい勤めに出るがやはりそこでも怠け、挙げ句の果てに昔の仲間に悪事に誘われるが、おかみさんの人柄で踏みとどまる。なぜか考えさせられる話。おかみさんを別の人に代えてみると・・踏みとどまるところがいい。
霜の朝 歳月 おつえ 信助 太陽
79年5月号
妹さちの結婚話。妹夫婦の幸せを願いつつも、妹の結婚相手である信助と自分(おつえ)との遠い昔の関わりを思い出し、筆にまつわる話や、廃れてゆく夫と家業、過ぎ去った歳月を考える。信助「こんなことになるんだったら・・」おつえ「それを言っちゃだめ」しんみりとした作品。
霜の朝 霜の朝 奈良屋茂左衛門   太陽
74年11月号
奈良屋茂左衛門と紀伊国屋文左衛門にまつわる話で、豪商同士の葛藤を描く。実話ものは結構あるが短編としては珍しい。別の長編作品『市塵』と同時代を背景に、車力の子供から成長し、江戸で一番の商人となった奈良茂、それを追い越す紀文、いくつかの有名なエピソードを挿み、時代の変化と共に凋落してゆく姿を描く。短編ながら力作である。歌川広重を描いた『旅の誘い』と同系統の作品か。共に74年太陽に掲載された作品で江戸の粋な風流をテーマにしたシリーズを目指されたのかもしれない。
春秋の檻 雨上がり 勝蔵 おみつ 1月号 小説現代79年1月号から80年1月号迄隔月連載。江戸小伝馬町の牢で、医者を勤める22歳の青年立花登。あまり環境の良くない生活の中で、押し付けられた牢獄医者をしながら、幾つかの事件の相談役となり、事件の真相を調査する。立花登手控えの第一弾。準主役にいとこのおちえが登場。そして第二弾『風雪の檻』に繋がる。7話からなる。その第一話は江戸の叔父がはやらない医者であることや、主人公立花登の立場を紹介しつつ、最初の話が始まる。牢屋にいる勝蔵に、ある男から十両の金を受け取り、おみつに渡して欲しいと頼まれたが、おみつはその金を持っている男の情婦であったという話。
春秋の檻 善人長屋 吉兵衛 おみよ 3月号 嵌められたと訴える言葉通り、その件に関しては無実であったが、実は十二年前の押し込み強盗の一味であった吉兵衛を解き放してしまい、おお慌てする。主人公・登の新米の甘いところを表している。
春秋の檻 女牢 おしの    5月号 亭主時次郎の借金のため、女房おしのは無残にも体を汚される。夫を殺害し牢に入るが、打ち首の前にかつて知り合いであった登の情けが欲しいと望みかなえられる。登も成長?して行くさまを描く。
春秋の檻 返り花 登和    7月号 勘定方役人のぬれぎぬと、牢内で起きた毒殺未遂事件に絡む武家の話。娑婆以上に金が物を言う牢のなかで暗躍する下男達の生きざまも面白い。
春秋の檻 風の道 鶴吉    9月号  押し込みを働いた相棒の名前を如何に責められても吐かない鶴吉。その理由は女房が殺されるからだと言う。しかし牢内に紛れ込んだ辰五郎に殺され、さらに辰五郎は出獄して女房の殺害をしようとするが、登達に救われる。女房の名前が付けられていない珍しいお話。
春秋の檻 落葉降る おしん 平助 11月号 牢に出たり入ったりしている平助。魔が指して財布を猫糞し再度牢に入るが、娘のおしんの許婚清吉の罠であることが判明。清吉は親方の娘婿の話に、おしんを傷物にし引き離す事を画策し親を罪人にするという話。
春秋の檻 牢破り おちえ    80年1月号 この小説の横糸である登の寄宿先の家族関係の一人、従姉おちえ、彼女が事件に登場。罪人に鋸を渡してくれと頼まれ、渡さなければ預かっているおちえを殺すと言われた登。おちえの行く先を求めて、おちえの悪友達を訪ね歩くが無駄足、懇意にしている親分の手を借り、やっと居場所を見つける。彼らは押し込み強盗の一味。最後はいつものパターン。そして第二弾『風雪の檻』に繋がる。
春秋山伏記 験試し おとし    1月号から
5作品を12ヶ月で掲載
『家の光』に77年1月号より12月号に連載された作品。山伏の大鷲坊が別当として村に登場して、幾つかの事件を解決する。田舎の風習を中心に、ユーモアと軽いエロチズムを盛り込んだ明るい短編小説集。五つの話から成り立っている。一作品とすべきかも知れないが、ここでは独立作品とした。本作品は会話が全て庄内弁で書かれている(秘太刀馬の骨も庄内弁)。その第一話。羽黒山から新しく来た大鷲坊が先ずは子供の命を救う話。偽の山伏月心坊とのやり取りがある。霊力のテストで歩けない娘の心を見破る。大鷲坊は別当として合格。
春秋山伏記 狐の足あと 藤助 さきえ   亭主の留守に間男(?)が訪ねてきている事をみた藤助。黙っている事の難しさ、我慢できなくなってつい人に話してしまった事から話しが大袈裟になる。これをネタにゆすりを思いつく哀れな男、権蔵。最後は大鷲坊の知恵で無事解決。人間とは、ついしゃべりたくなる生き物である。タイトルがよい。
春秋山伏記 火の家 源吉 おせん   昔村に住んでいて、のけ者にされ村を出ていった若者が帰ってきて古い空き家に住みついて起きる村人の動揺を描く。山伏の祈祷・お払い等軽妙なエロチズムも面白い。火に始まって火の終わる話も味がある。このような話はどこの田舎にも必ずあるような気がする。
春秋山伏記 安蔵の嫁 安蔵 おてつ   四十過ぎの生国も知れない男が村の家にこもる。力持ちではあるが、村で人気の無い安蔵が家をゆすって見事につかまえる。それとは別に、若い娘のおてつが狐付きになったので一生懸命秘術をつくす。大木の下になったおてつを、安蔵が怪力で助け二人は一緒になる。二つの話が最後に一つに纏まる話である。おとしは寂しい?、が大鷲坊はほっとする。
春秋山伏記 人攫い おとし 月心坊 12月号で終わり おとしの娘[たみえ]が行方不明になる。どこを探してもいない。箕を作る人にさらわれた事がわかる。特殊な人たちの存在と、山の中を捜しその人たちの部落を見つけ出す苦難、なかなか読み応えのあるお話。最後おとしは寂しくなくなる。このような村や人人が事実存在していた事が後日確認できたものの、舞台となった村の距離から徒歩で歩けたか、というようなことを気にしていたとエッセーにあったような気がする。藤沢さんらしい。
小説の周辺 小説の周辺         藤沢周平氏の田舎時代や、各種発表した小説の背景等のエッセイ集。白き瓶、一茶等の長編小説の背景がよく分かる。また忠臣蔵に関する智識の豊富さにも驚くばかり。用心棒日月抄の縦糸も忠臣蔵であり、米沢上杉藩を広い意味で故郷に持つ藤沢周平さんは忠臣蔵をどのように思っているか、知りたいところではある。これはこれで藤沢ファンにとっては見逃せない一冊。
白き瓶 白き瓶 長塚節 伊藤左千夫   別冊文藝春秋83年162号から169号迄連載された作品。小説『土』の作者、長塚節の人生を描いた長編小説。伊藤左千夫との出会い、左千夫の性格の意外性を含む、綿密な調査を十分にされた内容。一行一行に重みがある。後日談のエッセイも面白い。特に左千夫が節を尋ねた日付に関する藤沢さんの拘りに驚く。歴史小説としてのスタンスのあるべき姿を強調されているが、それ以外にも意味があるような気がする。私としては、作家藤沢周平が時代小説の第一人者の評価を超え、この作品一冊のみでも小説家としての存在を充分に納得させる最高傑作と思っている。全作品を通して、NO1の作品ではないか。藤沢周平氏も他の作品とは思い入れの違う『ライフワーク』と位置づけている(いた)のではないかと勝手に考えている。吉川英治文学賞受賞作品たーさんの白き瓶考
蝉しぐれ 蝉しぐれ 牧文四郎 ふく   秋田魁新報86年6月30日から87年4月13日迄連載された、藤沢作品の傑作中の傑作。無残な父親の死を背負い、一家の跡継ぎとして前髪の少年から大人へと成長してゆく牧文四郎の葛藤を描く。元服前の少年には判断をしかねる多くの難題を、親友の小和田逸平、島崎与之助の助けを得て乗越えて行く。母の心の奥に潜む夫への信頼と体面・石高への想い、その一方で武士の正義とは何かを見失わず、時にはよろめき、罠にはまり、はたまた利用されたりしながらも、遂に自分の目指す生き方を貫き目的を果たす。最後は思わぬ加増が訪れるという、ある種の青春物語である。殿の側女となったおふくとの心の交流も素晴らしい。父親の屍骸を運ぶシーンは特に圧巻。蝉、蜻蛉、日頃気にもならない程度の坂道での苦難、照り付ける太陽、冷ややかな目、ここは泣ける。剣術の鍛錬と試合、未亡人となった矢田の妻女、大人になる過程での酒の味・女。多くのエピソードがあるが、ひとつとして無駄なものがない。ただ最終章の一部分に関してはファンの間で賛否両論のようである。『どのくらい時がたったのだろう』、『あの白い胸など見なければよかった・・』あったほうがいいのか無いほうがいいのか。批判をすることは100年早い、藤沢周平氏に失礼ですね。最終章は単行本刊行時加筆修正されたことが『藤沢周平の世界展』で明らかになった。
  牧文四郎に関しての冗談
  踊字と『蝉しぐれ』  
  TVドラマ蝉しぐれ考
早春 深い霧 原口慎蔵 美尾 オール読物
93年12月号
叔父が上意打ちされた事件、その後ずっと秘事とされていたが、成長した甥がその真相を突き止め、遂に相手を仕留める。藤沢文学の典型的なパターン。蝉しぐれを軽くした感じ?。珍しく、風景描写のほとんど無い作品。
早春 野菊守り 斎部五郎助 オール読物
94年12月号
冷笑癖と思えるほど世の中を覚めた目で見ている主人公に大役が与えられる。執政が江戸から帰藩する迄の間、藩の不正を証言する娘の保護役。その名は菊。自分の家督相続の跡取り問題等を横糸にして、一人の武士の心が穏やかになって行くさまを描く。
早春 早春 岡村 清子 文学界
87年1月号
藤沢作品では珍しい現代小説。56歳窓際族の男に訪れた無味乾燥な日々。帰宅途中によるスナックのママに対する一人よがりの判断や、娘の結婚問題、無言電話、を題材に男寡の寂しい心情を描く。現代小説を何故書いたのか、どこかの解説にあった気もするが・・(残日録との対比)。藤沢さんには現代小説はいらない?一つぐらいあってもよい?。純文学として高い評価をする評論家も多い。雑誌『文学界』がシリーズとして著名な複数の作家に、一作品を依頼した結果生まれた作品とか。文学界からの依頼と言うことで藤沢さんが『現代物』と解釈して書いたとか。文学界サイドでは時代物を想定してたと言う話がある。
早春 小説の中の事実         エッセー集。長塚節に関することを始め、小説を書くための調査、誤り、真実のありようを藤沢さんらしい控えめな感じで淡々と書いている。小説は真実であってはならないが、一方で架空の話をいかにしたら読者に感動してもらえるかの工夫など面白い。歴史小説を読む場合の、読者のあるべき姿を学んだ作品である。すなわち小説であるから絶対的な歴史上の事実として理解しては危険である、と言うことである。
以下も全てエッセーである。この単行本にしか入れる機会がなかったか。
早春 遠くて近い人         短編随筆。司馬遼太郎の思い出を語る。たった一度しか会っていないこと、司馬遼作品はほとんど読んでいないこと、好きな作品は『ひとびとの跫音』であること、街道を行くは人後に落ちないファンであること等結構楽しい。『ひとびとの跫音』が小説かそれとも長文のエッセーか判らない、と解説しているが、藤沢作品にも唯一つ『振子の城』が私には同じように思える。しかしこのエッセーは何故かもっと奥の深い気がする。なんとなくではあるが、文章に深みがないような、出版社に依頼をされてやむを得ず書かれたような気がしてならない。
早春 ただ一度のアーサー         俳優アーサーケネディーに対する藤沢さんの思い。たった一本しか見ていないから想いが残るのだろうと言う考え方。キートンの話を含め、映画好きの一面がうかがえる。映画・音楽好きな面などは『遠藤展子氏』(藤沢周平氏長女)の書かれた文章から伺える。(藤沢周平のすべて・・文藝春秋)
早春 碑が建つ話         碑を建ててもらう人の心情と、自分が建ててもらうことになった時の、自分の考え、教え子から諭される話。400字程度の書き物。ここには書けないが、藤沢周平氏・小菅留治氏(本名)の二人のご自分それぞれで、ふるさとに対する思いが異なるのではないか。以上三篇はどこかのエッセー集に入ってもよいと思われるが、終盤の作品で時間的に無理であり、よって本書に収録したように考える。したがってそれぞれ一つの作品とした。