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『続・秘太刀馬の骨』の謎・不思議

継承者の異説

 ところで、作者が継承者を明示しているのに、何故このような議論(楽しみ)が喧喧諤諤と行われるのでしょうか。その理由は次のような事からであろうと思われます。

文庫本解説者『出久根達郎氏』の『異説の愉しみ』の影響が大きい。(最終章の最後、半十郎の妻女『杉江』の牛若丸のごとき剣さばき)
継承者の名前を具体的に出した人物は『浅沼半十郎』だけである。孫之丞は黙ってうなずいただけである。客観性に欠ける。
発表時と単行本で継承者が全く異なる。よって他の人物を想定したくなる。
秘太刀『馬の骨』の意味するところは、まさに何処の馬の骨であってもよいのではないか。

まず以上のような事柄ではないかと思っています。

それでは異説としての継承者にはどのような人人が噂されているのでしょうか。

北爪平九郎 最後の彼は仮病ではないか。負傷した場面が全くない。よってアリバイがない。又作品全体を通して、北爪ならば納得できる表現が多く存在する。
浅沼杉江 最後のシーンがそれを象徴している。そうとしか考えられない。女は男のように変身可能である。更に杉江の顔が変わる場面(254  270)の意味をどう捉えたらよいのか。これこそ継承者である。
長坂権平 最後に彼は二人と別れ、そこで急遽着替え走り去った男と入れ替わって殺害し、その後巴町の方から走り寄ってくる。そのため橋の上に来るまでかなり時間を要している。更に呼吸がかなり乱れた表現がある。

 色々あるようですが、それぞれかなり無理があるようです。(但しそのように変えることは可能です・・後述)浅沼半十郎が『矢野藤蔵』と確信をもった理由を精査している文章から考えると、彼、矢野藤蔵である事は明白でしょう。藤沢周平氏がはっきりと書いているのですから。しかしこれはこれとして楽しい遊び心でしょう。

 最後の、杉江のシーンの必要性に関しては、本作品の狂言回し役半十郎へのプレゼント説があります。病気の妻との関係が冷えている状況55 59から次第に快方に向かってゆく様が多く語られ、別の意味で重要な脇の話として進んでゆきます。治癒したという結末で終わる事によって、彼の努力に報いたのである。そんな解釈もあるようです。

ある種の剣豪作品であるにもかかわらず、かなり多くの場面に女性杉江のことが登場している訳は、唯単に殺伐としたストーリーに花を添える意味なのか?。それとも・・・。

私の継承者造り

 それにしても『杉江』の最終章『風のように走り寄ると・・・』は一体???。たーさんも異説を楽しむ一人です。そんな意味で考えると、本作品は別の楽しみを味わえるおまけつきの小説なのかもしれません。即ち本作品は、作者が変更された部分を独自に書き換えることによって、継承者を変更出来る仕組みになっています。まさに『馬の骨』の通りどこの馬に骨でもよいのかもしれません。

 証人役の『孫之丞と死亡した沖山』は無理ですが、読者がそれぞれの想いで『矢野』、『北爪』、『内藤』、『長坂(これは多少無理?)』、『兼子』、『杉江』、『その他』等を継承者にすることが可能な作品なのです。当然のことながら馬の骨を遣った人物の体形その他、継承者としての納得の行く文章でなければなりませんが。こんなコンテストをやってみたら、そこそこの迷作??が生まれるかもしれません。勿論原作に及ばない事は明々白々ですが(作者に対して失礼ですね・・冗談です)。未だお読みになっていない方がおいででしたら、一読をお勧めします。

 以上、勝手な推測をしてみました。亡くなられた今となっては知るよしもありません。この辺に関しては藤沢周平氏令夫人やお嬢様の遠藤展子氏がご存知かもしれませんが、作品に関しても寡黙であられた(推測です)藤沢周平氏であってみれば、それも無理かも知れません。あるいは著者が絶対的な信頼をされていた(勝手な推測です)阿部達二(達児)氏はご存知かも・・?。

 藤沢周平氏に対し失礼である、更に冒涜である、という批判を覚悟の上で敢えて書きました。ご理解いただければ幸いです。尚、引用した原文が著作権侵害であると、著作権関係者から異議の申し立てがあった場合直ちに掲載を中止します。

2004年7月 

追記

オール讀物2005年9月号に特集として 藤沢周平「秘太刀馬の骨」の世界が掲載されました。その中で、何と『阿部達二氏』が犯人?が変更になったことに関してお書きになっておられます。楽しい読物です。何となく嬉しくなりました。

藤沢周平作品ファンの青江松三郎さんからの投稿『秘太刀馬の骨の継承者』を掲載(2006/12/25)しています。

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