藤沢周平作品の文章は、敢えて難しい文字を使わず、出来るだけ平易でわかりやすく書かれていることはファンの間で定評のあることです。又特徴として『山々』『人々』等を『山山』、『人人』と拘って書かれていることも熱烈なファンのよく知るところです。このことに関しては、何故かな(どちらが正しいのかなも含めて)と、過去に疑問に思っていましたが、あるチャンスから藤沢周平氏とご親交のあったHN慈慈さんという方が教えてくれました。
それによりますと、『山山』『人人』が本来正しい書き方で、『山々』『人々』は踊字(おどりじ)という使い方であるとのことでした。広辞苑を引いてみましたら、きちんとした説明があり納得すると同時に、文字に拘る藤沢周平氏らしいと改めて感心をいたしました。同時に『山々』『人々』のケースは既に市民権を得ているので慣用として用いても間違いではない、とのことでした。
藤沢作品の殆んどは、この踊字を使っていませんが(稀に一二箇所紛れ込んでいる作品は多少あります)例外があります。その作品があの名作『蝉しぐれ』です。(他にもあるかもしれませんが・・・)本作品は全編に亘ってこの踊字が使われています。何故か?、勿論私などにその理由が解るはずもありませんが、しかし拘りの周平氏ですから、無意識に使われるとは到底思えません。何かそれなりの訳があってのことではないか・・そう思っています。
2005年9月17日から10月30日迄、東京世田谷の世田谷文学館で開催された『藤沢周平の世界展』。大好評であったようですが、当然のことながら『蝉しぐれ』に関しても詳細な情報が展示されていました。
公開された情報の中に私にとっては沢山の驚いたことがありました。中でもこの作品を始めて掲載した新聞が1986年7月9日山形新聞ではなく、それより十日ほど早い1986年6月30日『秋田魁新報』であることでした。(本ホームページの作品情報では特に訂正してありませんが・・・)そして本作品が『学芸通信社より地方紙に配信された』とありました。すなわち初掲載の日付は多少異なっていたかも知れませんが、全国複数の地方紙に連載されていたことをうかがわせる内容でした。
まことに以って下衆の勘繰りですが、広い範囲の地方紙に掲載されることを考慮して、一般的には市民権を得ている『踊字』を使ったほうが自然かなぁ・・そんな思いから、この作品ではこだわりを捨てられたのではないか・・・全くの邪推でありますがそんな風に思っています。(~_~;)
『藤沢周平の世界展』で、『蝉しぐれ』に関して上記以外にも私としては多くの発見があり素晴らしい催しでした。
当初構想の段階では題名は『蝉の朝』を頭の中で描いていたこと、『ふく』は当初『佐久』を考えていたこと、『ふく』という名前を決めるにあたって70名ほどの名前から選定したこと、あの感動的な最終章が新聞連載時の内容にかなり加筆修正がなされていたこと、等等です。
NHK金曜時代劇でのテレビドラマも黒土監督の東宝映画も共に素晴らしい作品で大好評でした。特に映画は全国の中学生・高校生の全員に観てほしい・・あの15歳の少年が強く正しく生きてゆく姿を・・そんな思いで一杯です。